カマキリとナナフシの生態や採集,飼育方法の話

Mantis & Stickinsect

盛夏から晩秋にかけてまで観察することが出来るカマキリとナナフシ。食肉性と食植性など違いはありますが、バッタ類も含めて同じ直翅目の仲間です。そんなカマキリとナナフシの世界を少しだけ覗いて見ましょう。

ハラビロカマキリ@臨戦態勢:山間部から平地までの樹上に多く、かなりの都市部にも生息するカマキリです。

■はじめに… カマキリの仲間は比較的大形の種類が多く、夏~秋にかけてチョットした野原や家の庭などでも目にする事が良くあります。ナナフシは木の葉や木の枝にソックリな形態で動きもそれ程はやくないため、普通に歩いていても中々見掛けることは少ない様に感じますが、注意深く探して見ると、意外と身近で見付かることもあります。彼等は直翅類と言って、バッタやゴキブリ等の仲間にあたり、中にはまだ生態自体があまり良く知られていないものもいます。ナナフシ見たこと無い!採集したい!折角だから飼育してみたい!と思うかどうかは判りませんが、ここではカマキリやナナフシの生態の他、採集方法と飼育方法を中心に彼等の世界をご紹介したいと思います。

■採集方法… カマキリ,ナナフシは草原に生息するものほど一般に良く知られていますが、樹上性のものから地上徘徊性のものまで幅広く存在し、種類によってそれぞれ採集方法が異なります。以下の採集方法はカマキリやナナフシに限った方法ではなく昆虫採集の全般的な方法を指すものですが、カマキリ,ナナフシの仲間にも応用できますので、色々試してみると楽しめると思います。

コカマキリ:地上徘徊性。夜間は灯りにも集まる。どのカマキリも夜は複眼が真っ黒になる。

■ルッキング… 目的の昆虫を自分の目で確認して捕虫網などで捕らえる方法。昆虫の種類によっては、かなり長い柄の網を使用する事もありますが、昆虫専用の網の竿は高価なものが多いため、釣竿を改良したり、磯釣りなどで使用する磯タモ等を使用すると比較的安価に済みます。

■スィーピング… ネット(大体は直径50~60㎝の大口径のもの)を使って、目的の昆虫がいそうな場所をすくう方法。葉の多い木の枝や草の茂みに隠れている比較的小型の昆虫を探す場合に有効。但し失敗する確率も高いため十分にルッキングした最終手段でやることをお勧めします。

■ビーティング… 樹上性の種類や道沿いの草むらなどに隠れている種類を探し出す方法で、目的の昆虫がいそうな木の枝や草むらの下に「ビーティングネット」と呼ばれる網を差し入れてから、木を揺らしたり草むらや木の枝を上から叩いたりして、隠れていた昆虫を落として採集する方法です。ビーティングネットは専門のショップなどでも扱っていますが入手が困難な場合は、ビニール傘などでもじゅうぶん代用が可能です。

■ベイトトラップ… 果物や肉片などの餌でおびき寄せる採集方法。樹皮に糖蜜を塗ったり、木に果物を入れた網を吊るして昆虫を誘う方法や地面に埋めたコップやインスタントコーヒーのビンに餌を入れてオサムシ類を狙うトラップが有名ですが、場所によってはオサムシトラップにて、石川県ではレッドデータとなっているヒナカマキリが入ることがあるようです。この方法を利用する場合、使用したトラップの残骸や容器など、現場に捨てることなく後片付けもキチンと実施することは忘れない様にして下さい。

■ライトトラップ… 夜間に白いシーツなどに光をあて、蛾や甲虫類を誘引して採集する方法。直翅類も灯火に誘引されやすいため、場所によってはかなり有効な採集方法となります。この採集方法を実施した場合も、蛾や羽虫の死骸などの後片付けを忘れずに実施し、また、光を民家や走行中の車にあてたりしない,私有地では必ず許可を取るなどの注意事項を忘れない様にして下さい。

ウスバカマキリ:草原性。人工的な埋立地等に多く夜間の外灯等に飛来することもとても多い。

 

■飼育方法… 両種とも垂直式に脱皮するものが多いため、少なくとも体長の2倍の高さ(深さ)がある飼育ケースが必要となりますが、市販されているプラスチックケースを縦に立てて利用することで代用可能です。ケースには、ナナフシの場合は食草に,カマキリの場合は産卵や脱皮用などにする植物を、ケースを立てた時の高さに合わせる位にして入れておきますが、両種とも脱皮を考慮して、十分な空間を確保するような工夫をしてください。

カマキリはケースに入れた植物だけでなく、ケースの側面や天井などにも産卵することがありますが、ナナフシ類は殆どが落下方式の産卵であるため、卵はケースの底部より回収します。ただ、ナナフシの卵は、糞と良く似た形状ですので、間違えない様に注意する必要があります(卵は映画エイリアンに出てくる卵をゴマ粒大にしたような、植物の種にも見える壷のような形をしています)。

バッタ類を含めた直翅類は、狭い容器に多数入れて飼育しないことが重要です。そのような環境に入れた場合、接触刺激によって機械的に脱皮してしまい、脱皮途中で死亡することが判明しています。また、高湿度や高密度で飼育すると、自然状態ではあまり見られないような体色や体形が現れる場合があるため、自然生態の観察,研究を目的とした飼育を行う場合は、その様な環境での飼育も避けた方が無難です。尚、カマキリの脱皮の回数は種類や環境、雌雄によって異なり、大体が5~7回ですが、自然界では稀に、飼育下では狙って大型化のために8齢幼虫となる個体もおり、その場合は通常より大型の成虫が出現します。

エサについて、カマキリはご存知の通り肉食であるため、コオロギなどの生き餌なら何でも良いです。但し、幼虫や小型のカマキリに大き過ぎる餌を与えても食べないので、ハエや蚊などの小型の昆虫を与えたり脅かさないように静かにハムなどを口に当ててやると食べることがあります。

ナナフシ(幼虫):脚の模様が特徴的な幼虫期間は、複数の個体が集まっていることが良くある。

ナナフシ類は草食ですので、自然状態での食草を与えるのが最も良い方法ですが、食草がわからない場合などは、代用食で飼育が可能です。代表的な代用食として、りんごの輪切りか水で薄めた糖類があります。また、コナラ,ブナ,アラカシ,桜,キイチゴ類,ジャノヒゲ(ユリ科の植物),サンゴジュ(生垣等に使われる常緑樹)などを食べるようですが、特にキイチゴ類は適用範囲が広いようですので、数種類あるキイチゴの何をどの種類が良く食べるのかなど、実験してみるのも良いと思います。

■両性生殖と単為生殖… 一般に昆虫類は雄雌が交尾してから産卵し子孫を残しますが、まれに雄が極端に少ないあるいは雄がおらず雌のみで卵を産み子孫を増やす種も存在します。前者を「両性生殖」,後者を「単為生殖」と呼びます。ナナフシ類の多くは単為生殖をしており、日本産ではトゲナナフシ,タイワントビナナフシ,シラキトビナナフシ,ヤスマツトビナナフシ,ナナフシモドキなどが良く知られています。また、これら以外でも状況によっては単為生殖を行う場合があるようです。どの種類が単為生殖をするのか?など、研究してみると以外な発見をするかも知れません。また逆に単為生殖のみだと思われていた種類の雄が発見されたりする場合もありえます(ナナフシモドキの野外産の雄の発見は、1990年という極々最近のことなのです)。

■トピックス… 外来種であるムネアカハラビロカマキリ(タイリクハラビロカマキリ)が本州中部以西で局地的に生息が確認されている。国産のハラビロカマキリより大型で名前の通り胸が赤く、国産ハラビロカマキリの特徴である前腕の三ツ星が無いなど、いくつかの特徴がある。在来種と共存が出来るのであれば大きな問題は無いのかも知れないが、生息が確認されている地域では在来種のハラビロカマキリから外来種のムネアカハラビロカマキリへの置き換えが刻々と進行しているため、石川県でも生息が確認された場合は駆除を含めて注意が必要な段階に来ている。

 

 

2003年11月26日 白山好虫会

LastUpDate 2016.02.18