セミに関するウンチク的な小話

Cicada

ここではセミに関する分類や生態,飼育方法などをご紹介したいと思います。学術的にあまり詳しく目新しい記述を載せることを目的としていないため専門家の方には物足りない内容だと思いますが、まずは興味を持つことが重要だと思いますので軽く触り程度にコラム感覚で綴ってあります。楽しんで読んで頂ければ幸いです。

エゾハルゼミ:新緑の頃から初夏にかけて高標高の山地に出現し、特徴的な鳴声の合唱を聞かせてくれる。

■はじめに… 夏を代表する虫の一つであるセミですが、「声は聞こえど姿見えず」とか、山の中などで「普段聞きなれないセミ『らしき』虫の鳴声が聞こえた」など、そんな経験をお持ちの方も多いと思います。日本国内,いえ石川県内でさえも地域によって見られる種類に差があり、また年と共にその種類が変わって行ったり、年毎に発生数に差異が生じたりして、長年研究するにはなかなかもってこいの素材でもあります。そんなセミのことについて少し掘り下げてみます。

■セミの分類… 世界に目を向けて見た場合、セミは「セミ科Cicadidae」と「テチガルクタ科Tettigarctidae」の2科に大別され、後者は原始的なセミで♂でも発音が出来ず、僅かにオーストラリアに2種類だけいるとの事です。セミ科は6亜科に分けられますが、日本にはセミ亜科(Cicadinae)とチッチゼミ亜科(Tibicininae)の2つだけが知られています。両者の区別は♂の背弁(はいべん)の有無(セミ亜科=有,チッチゼミ亜科=なし)とされています。

超普通種のアブラゼミ。一生の殆どを土中で過ごすセミの中で、ある程度の生態解明されている数少ないセミです。

■セミの生態… 一般的によく「セミは7年地中にいて地上では一週間しか生きられない」と言われていますが、これは全てのセミに当て嵌まる訳では無く、実はこれアブラゼミの生態であって、セミの仲間でも生態が解明されている数少ないものの一つと言う事になります。ただこれも自然界でのお話で今日までの研究によれば種によって差異はあるものの、室内環境における飼育では大体のセミの幼虫期間は長いもので5年程度,その他1~2年で羽化する種類も多いことが判ってきました。自然界におけるセミの生態については、まだ解明されていない部分も多いという事ですが、とは言えセミの仲間は昆虫界においてかなりの長寿の種であることは間違いありません。因みに種類毎の室内での幼虫飼育期間は、ツクツクボウシで1~2年,ミンミンゼミで2~4年,アブラゼミで2~5年,クマゼミは2年程度で羽化した記録が残っています(ベスト飼育条件はまだまだ未解明)。

長い年月地中で生活した後、脱ぎ捨てたヌケガラ。外敵から逃れるため、成虫への脱皮は殆ど夜間に行われる。

1頭の雌のセミが産卵する卵の数は300~600と言われ、孵化はハルゼミやニイニイゼミなどがその年の秋頃に,アブラゼミやミンミンゼミ,クマゼミ等は翌年の梅雨頃と言われています。因みにセミは羽化後4~5日で成熟して雌は交尾後に産卵後その一生を終えます。殆どの種類の産卵は枯れ枝などの樹木の組織内に産卵管を差し込んで行なわれる(例外的にチッチゼミはツツジの生枝に産卵します)ため産卵された枝には明確な『産卵痕』が残ります。羽化した幼虫は樹木を歩いて下りたり空中を落下して土中に潜っていきます。その後5齢までのステージをずっと土の中での生活を経て成虫になります。成虫,幼虫ともホストを主張する種類もいますが、厳密に「この樹種しか駄目!」という種類もいますが、生息数の多い種になればなるほど樹種を選ばない様ですが(幼虫飼育では多くの種がアロエで生育出来る)多くの個体が発見される好む木(好む樹種)と言うのは存在するため、多分そのあたりの条件については、今からでも研究するに値するテーマだと思います(当然、幼虫飼育は長期間になります)。

独特の声で鳴くツクツクボウシ。気持ち良さそうに鳴くこの虫(成虫)を飼育するのは少し困難…

■セミの飼育… 成虫の飼育については結構困難を極めます。その日に採って来たセミが次の日まで生き残る確率は非常に低く、仮に生き残っても殆どボロボロの状態で。。。子供の頃には皆さんもこういう経験なさってきたかと思いますが、実際のところ成虫の活動期間が短く、色んな図鑑に載っている方法を試そうとしても住宅事情や環境などの問題からも中々成功しません。とりあえずここでも色んな図鑑などに載っている飼育方法をご紹介致しますが、参考程度に考えて下さい。

 ①成虫は木の汁しか吸わないので立木に長い糸で繋ぐか木の幹の一部を囲った中に成虫を放す。

 ②♀を飼育する場合、その環境に枯れ枝を入れておくと産卵する可能性がある。

成虫を飼育できるだけの環境を準備する必要がありますがこれが最も工夫が必要かも知れません。

幼虫を飼育するには、発生時期の夕方から夜にかけて土中から出てきて羽化する幼虫を採集し、羽化する様子を観察するなど、これもまた子供の頃に経験された方も多いと思いますが、この時の幼虫は当然のこと終令幼虫であり、羽化の様子を観察することが主な目的となります。それとは別に木の根元近くの地面を掘り返していると稀に終令以前の幼虫を発見することがありますし、前述したような「産卵痕」のついた枯れ枝を持ち帰り、孵化時期に鉢植えの木の近く等に差しておくと孵化した幼虫を得ることが可能となります。持ち帰った枯れ枝の管理については、発生時期までなるべく自然の風雨にさらすほうが良い様で、室内で管理する場合は水分調節が難しいのと、予期せぬ虫が発生する可能性も高いのであまりお勧めは出来ません。以前は幼虫の飼育にジャガイモを鉢植えにしたものを使用する場合が多かったのですが、最近ではアロエを鉢植えにしたものを使用するのが主流となっています。育成期間は種によって異なりますが、色んな種について研究してみると面白いと思います。

外灯や窓からこぼれる室内灯の明かりにさえ反応して鳴くアブラゼミの声は合唱されるとまさに騒音。

■セミとヒトの関係… セミは人の生活にとって害虫としての側面も持っており、アメリカの「17年ゼミ」や「13年ゼミ」などの所謂「周期ゼミ」は、大発生の年には果樹園に膨大な被害をもたらすそうです。そんな周期ゼミほどでは無くても、アブラゼミ,ニイニイゼミなどは日本でも果樹園の「大害虫」で、特に梨園やビワ園,りんご園における被害が甚大で、一本の木に十数頭群がっていたり木の根元の1メートル四方から数十頭の幼虫が出てくることもあるそうです。また石川県では稀なクマゼミも、多産地域のみかん園などでは同様の被害をもたらす害虫だそうです。カゲロウなどと並び儚い命の虫の代名詞的存在であるセミには、こんな側面もあることは知っておいても良いと思います。

 

2003年11月26日 白山好虫会

LastUpDate 2016.02.15