子供の頃からの昆虫好きの方はもとより、大人になってからクワガタムシの魅力に取り憑かれる方も少なくありません。ここでは石川県内で見る事が出来るクワガタムシを中心に、その魅力について考えると同時に、危機感溢れるフィールドの現状に迫ってみたいと思います。
■はじめに… 近年の昆虫ブームにより、種毎の特徴や分類等、かなり詳細な説明が記述されたサイトも増え、また多くの書籍も出版されているため、ここでは特徴や種の分類等の詳細は割愛して石川県に特化した観点のクワガタムシについて、環境という側面から見た解説を試みます。
■生息地の今… 加賀地方から能登地方まで縦に長く伸びた石川県。高山帯から海岸付近まで随所で開発の波は避けられないものの、比較的良好な自然状態を保つことが出来ています。そのおかげでかつては至るところで様々なクワガタムシを見ることが可能でした。そんな中1980年代後半にオオクワガタ1頭に数万円の値が付きそれが一般に認知され始めたことを皮切りに、1999年に植物防疫法が規制緩和されたことで昆虫の海外輸入が可能となり様々な外国産昆虫飼育のブームが到来。さらに2003年になると日本中の小学生男児がハマったカードゲームの登場により空前の昆虫ブームが訪れました。行き過ぎたブームは過度の採集圧を呼び有名採集地は県外からの採集者も遠来し場荒れも進みましたが最近はでは少し落着きを取り戻しつつあるようです。異常気象などの自然現象が生息条件に影響している事は間違いないのですが異常気象に匹敵する脅威を与えそうになったことも事実です。採集時には他の生物のことも含めた環境保全も頭に入れておきたいところです。
■垂直分布的ロケーション毎の生息地… 以下、石川県を縦に割ったことを想定してどんな場所にどんなクワガタが生息しているかの考察です。
■亜高山・ブナ帯等… 2000㍍級の山々が連なる加賀地方を中心に、ヒメオオクワガタ,ツヤハダクワガタ(ミヤマツヤハダクワガタ),マダラクワガタ,オニクワガタ,ルリクワガタ,コルリクワガタ(キンキコルリクワガタ)などが生息しており、もう少々広い範囲の生息域を持つアカアシクワガタやスジクワガタも同域で観察出来ます。生息地の場所によっては国立公園内の特別保護地区(採集禁止地区)が含まれるため採集前にビジターセンター等で確認するなど注意が必要です。
■ブナ帯下~低山・里山… 石川県で最も広い面積を占める帯域で、ミヤマクワガタ,コクワガタ,ノコギリクワガタ,スジクワガタ,場所によっては、アカアシクワガタ,ヒラタクワガタ,ネブトクワガタ,チビクワガタなどを観察できます。林業が盛んな石川県では杉などの植林地帯が多く、また個人所有の竹林や松林など経済効果のある森林も多いため、採集時にはそれらの樹木や椎茸などの農産物を傷付けたりしないことに気を配る必要があります。ブナ帯下はミズナラ林、低山・里山地帯ではクヌギよりコナラが主の雑木林,二次林が多く、クヌギの台木を作る習慣が殆どない土地柄であるため、西日本や山梨県にあるオオクワガタの多産地帯とは異なる環境となっており、生息地内の特定一箇所の樹木が出す樹液にて集中的に観察される場合が比較的多くあります。またネブトクワガタやアカアシクワガタは、比較的個体数は少ないものの、各種発生条件が揃っていれば、局所的にではありますが金沢市内でも観察することが出来ます。
■低地,海岸線,河川敷など… 住宅地区,商業地区,工業地区がその大半を占めるこの帯域では、圧倒的にコクワガタの個体数が多く、次いでノコギリクワガタ,ヒラタクワガタ,ネブトクワガタ,チビクワガタが観察出来ます。しかし開発の波をモロに被っている帯域であるため、ホストとなる大木の消滅や樹液を出す木があっても発生木の消滅により潰れた生息地も数多く存在し、また、この帯域における採集圧も非常に高まっているため、採集者自らの手で潰してしまった生息地も多数存在します。
本当はもっと周辺環境,植生などの詳細なデータを載せたいのですが、心無い採集者や環境破壊によって年々狭まって行く生息地の現状を目の当たりにし、これ以上の詳細なデータ開示は差し控えさせて頂きました。よって採集地に関するお問合せ等を頂きましてもお答えする事は出来ませんのでご了承下さい。
(種数や分布数,分類等については、現時点のものです)