甲虫の世界

Beetle's World

『甲虫』の仲間は昆虫の中でも最も種類数の多いグループで、日本で約10000種,世界では30万種以上とも言われており、また大きさ(成虫)も0.5ミリ以下のものから100ミリを超える大型のものまで大変変化に富んでいます。発生時期、食性、生息環境なども様々ですが、ここでは基本的に石川県で見る事が出来る虫を中心に考え、その魅力などを追ってみます。

カラカネハナカミキリ:この画像の様に紫色に見えるものから緑色,金色など個体毎の色彩変化に富んでいる。

 数ある昆虫の中でも甲虫類(鞘翅目:ショウシモク)は最も種類数の多いグループで、日本だけで約10,000種以上,世界となると30万とも40万とも言われています。また石川県では約8,000種の昆虫が確認されていますが、そのうち甲虫類は3,000種を超えます。ところがそれだけに種が確定されていないもの(未発見)や未登録のものが多く、環境や気候の変化によって年々生息場所が移り変わっていることにも起因して、今後も多くの種が確定・発見されていくと思います。新たな昆虫の発見は我々一般人にとっては難しいかも知れないけれど、例えば日本最大の甲虫であるヤンバルテナガコガネは1983年に発見されたもの。ひょっとするとしょっちゅう見かけるアノ虫が実は未発見種だった!なんてことがあるかも知れません。特に小さな虫や種類が多い虫にはその可能性も十分あると思いますので十分な観察を心掛けたいところです。

センチコガネ:メタリックに輝くそのボディは見るからに固そう。

尚、この『甲虫の世界』のページ。構成やデータは参考文献からの引用になりますが、経験則なども含めて出来る限るの解説を試みてみます。誤解などあったらご指摘下さい。

■成虫のカラダについて… その大きな特徴は体全体がキチン質で硬いコト。中でも翅鞘(シショウ)は、その下に薄い膜状の後翅(コウシ)と腹部を覆ってさながら鎧の様です。また左右の翅鞘は背中の中央で互いに重なることなくピタリ!と会合します(もちろん例外もアリ)。後翅は膜質で翅鞘の下に畳み込みますが、畳み方にはグループによって特徴があり、進化の過程をしのばせます。中胸(チュウキョウ)と後胸(コウキョウ)は翅鞘の下に隠されるのが普通で、中胸の一部は小楯板(ショウジュンバン:翅の付根の三角形の部分)として背面に現れています。口は色んなものを咬むのに適していますがゾウムシ類の吻(フン)の様に、使い方に適応して特殊化したものもいます。腹部は元来は9節ですが、尾端の1~3節は変形して縮小し、前の節に収め込まれることが多く、腹部のキチン化した腹板は、通常5節が確認出来ます。成虫の大きさは0.5㍉以下の微小なものから100㍉を超える大型のモノまで、極めて変化に富んでいます。

ムラサキツヤハナムグリ:この仲間には朽木や倒木を土に戻すという自然界で重要な役割を担う昆虫が多い。

■幼虫のカラダについて… 食性の違いで色々と進化に変化が見られ、長い脚を持って歩き回るものから脚が退化したウジ虫型のものまでいます。ただ『一般的に食肉性のものは脚が長く、食植性のものは短い。』 …と図鑑には記述してありますが、『一般的』が何との比較かとか『脚の長い短い』の基準もハッキリ判りませんので参考程度に考えて良いです。体とは関係ありませんが、自然界における役割が成虫より幼虫の方が大きいと思える種が多いですね。

■蛹について… 甲虫類は、蝶や蜂と同じ様に蛹の時代を経る『完全変態』をします。反してバッタやセミの様に蛹にならないまま成虫となることを不完全変態といい、今日までの研究では不完全変態の方が原始的な部類とされています。蛹化(ヨウカ)に際しては、植物中や土中に蛹室(ヨウシツ)といわれる空洞を作り、常にその中で蛹化します。

オニクワガタ:飼育下に蛹化したが、誤って蛹室を壊してしまったため人口蛹室で羽化を待つ個体。

■食性は… 大きく食肉性と食植性ものにわけられますが、中には一部のクワガタムシの仲間に見られる様に普段は樹液を舐めていても稀に動物の死骸から体液を吸汁したり他の昆虫を襲って食べる行動を見せる種もいたりして、まだまだ研究の余地がありそうな分野です。その他にも腐肉や腐敗物を食べる食腐性のものや、哺乳動物の糞のみを食べる食糞性のもの、またその他の昆虫に寄生するものもいます(完全に内部寄生する甲虫の仲間はいないそうです)。

■進化の歴史… 蛹のところで少し触れましたが、甲虫は昆虫の中では比較的進化したグループに属しているものの、しかし、地上に現れた時期は古く古生代の末期まで遡ります。幼虫の形態からヘビトンボなどの広翅目(コウシモク)に最も近く、その近い祖先から分かれてきたものた考えられています。甲虫の中ではナガヒラタムシ(始元亜目:シゲンアモク)の仲間が最も原始的で、古い地質時代からの化石も発見されています。中生代になると甲虫の科の数が急激に増加し、新生代の初期には現在の科の殆ど出来上がったと考えられているそうです。石川県でも化石が出る場所が色々あるので、たまに趣を変えて化石探しも楽しいですよ。ひょっとしたら珪化木の中に幼虫の食痕を発見したり、幼虫や蛹の化石が発見出来るかも知れません。

ラミーカミキリ:2004年,2015年、白山市で確認したこの虫は幕末~明治の頃に日本に侵入した外来種。

■甲虫相… 日本全体で考えると、地殻変動に伴ったり海流に乗ってアジア大陸から様々な種類が流入し、複雑多様な甲虫相となっているようです。流入してきた甲虫でも、日本国内の地形や気候にあわせ各種各様の種に分化したものもいれば入って来た時のままの姿をとどめる種もいますが、何れにしても温暖多湿で植物や小昆虫の種類も数も多いため、甲虫の生息密度も比較的高いようです。石川県ではブナ帯と低山帯が植林などによって故意に分断されている場所も多く、ちょっと特殊な甲虫相になっているかも知れません。因みに石川県限定または局所的な生息地が石川県にある甲虫もいて、ハクサンクロナガオサムシなどはその名前からも白山固有亜種として知られていますし、今では国内での生息地が限定的なシャープゲンゴロウモドキやイカリモンハンミョウが石川県に生息していることはあまりにも有名な話ですね。

■分布について… 日本に現存する約10,000種の甲虫のうち、和名の付いた比較的大型のものの分布域については、過去に調査された結果より定点観測的に継続調査も行われていてほぼ確定もされていますが、名前もなく分布域も不明な微小なものが無数にいます。またカミキリムシやタマムシの幼虫のように木材や植物の種子に穿孔するものは潮の流れによって日本の沿岸に漂着して分布を広げたり、微小なものは上空の偏西風にのって大陸から流入してくるようです。日本海に面してしょっちゅう黄砂が降ってくる石川県。セミ類などの大きな昆虫が大陸から入ってきてたまにニュースになりますが、気が付きもしないほど小さな虫や隠れるのが上手な虫は、結構流入してきている様ですが定着する種はあまりいない様です。尚、穀物害虫としての甲虫や木材に穿孔するものなど人畜との密接な関係をもつ一部の甲虫は、意識的・無意識に関わらず人為的に各地に運ばれて世界中に分布域を広げています。

 

日本に約10,000種(亜種含む)いるコウチュウ目(Coleoptera,甲虫目,鞘翅目)のうち石川県では3,000種以上が記録されていますが、その殆どがオサムシ亜目とカブトムシ亜目に属し、それぞれオサムシ亜目で10科300種以上,カブトムシ亜目で100科2,800種以上に分類・確認されています。以下、オサムシ亜目からはオサムシやハンミョウの仲間、カブトムシ亜目からはクワガタムシやコメツキムシ,ゾウムシ,ハムシ,カミキリムシといった、ごく身近でも観察出来る甲虫達の特徴などをご紹介します。

【オサムシ】 オサムシの仲間=オサムシ亜目には、道端や家の庭などでも見掛けるゴミムシ科のムシや、所謂「ヘコキムシ」として有名なミイデラゴミムシなどが属すホソクビゴミムシ科,あまり聞き覚えがないセスジムシ科,後に説明するハンミョウ科,意外と種数が多い水生昆虫のゲンゴロウ科(日本に約100種)やミズスマシ科の昆虫が含まれ、全て合わせると日本では1,000を,石川県では300を超える種が確認されています。先ずはマイマイカブリ等に代表される真正の「オサムシ」について。

マヤサンオサムシ:カントウアオオサムシと極めて近い仲間だが真性のアオオサムシは石川県内では未知。ただマヤサンオサムシでここまで緑が強い個体は稀。

日本に約40種いるオサムシの仲間は寒冷地に種類が多く何れも中型から大型の種類ばかりですが、大部分の種類は後翅(コウシ)が退化して飛ぶことが出来ないために地理的隔離が起こり多くの亜種が生じています。そのうちマイマイカブリは日本特産のオサムシですが、彼等は後翅が退化しているだけでなく左右の翅鞘(シショウ)が癒着していて離れないという特徴を持っています。マイマイカブリの分布域は広く、縦には平地から高地まで,横には北海道から五島列島や屋久島などの離島にまで広い地域に生息していますが、やはり飛べない影響からか同じ県内であっても山が違えば微妙に色味が異なったりする見た目の特徴を備えています。

マイマイカブリが日本全国に分布していると言っても、厳密には地域ごとで亜種となり、南下するにつれ強大になります。隣接する地域毎の亜種では交尾も産卵も順調に行われ中間型も生じますが、日本の北の端と南方の大型のマイマイカブリ同士では産卵はおろか交尾さえも出来ず、全く別種のように見えます。彼等の名前はカタツムリに齧り付いているところから付けられたのは有名な話ですが、実際に主食はミミズやカタツムリでカタツムリを食べないと産卵出来ない構造になっており、幼虫はカタツムリだけを食べて育ちます。

マイマイカブリは黒っぽい色が多いですが、それ以外のオサムシの仲間には北方特有のオオルリオサムシをはじめ鮮やかな翅鞘を纏った種がいます。夜行性の彼等は、昼間は石の下や草むらでじっとしているため、普通に生活していると中々目にする機会はありませんが、オオルリオサムシほどでは無いにしろ石川県で見ることが出来るマヤサンオサムシなどでも、稀に「ハッ!」と目を引く美しさを持っている型(色彩変異)も出ます。しかし夜行性の彼等がなぜその様な美しい翅鞘をまとっているのか、いまだ謎は解明されていません。因みに石川県や福井県などに分布するハクサンクロナガオサムシは、その名前の通り真っ黒けです。

ハンミョウ:昔はごく普通に良く見られたハンミョウだが、最近は個体数も生息地数も伴に激減している。

【ハンミョウ】 昔々、今は亡き祖父と共に卯辰山の奥卯辰方面へ向かう遊歩道を歩きつつ、幼い私が昆虫採集に勤しんでいた時、一番良く出会った甲虫がハンミョウでした。今でも舗装されていない(砂利道よりも土が見える)公園の遊歩道などを歩くと見かける事がありますが、昔ほど数は多くない様な気がします。彼らは目視しながら近づくと1~2㍍の距離で飛び立つクセに、知らずに近づくとまるで足下から不意を突く様に急に飛び立って4~5㍍程先の路上に舞い降り、以降まるで道案内でもするように先へ先へと飛び立って行き、別名「道教え」「迷わせ虫」の異名をとる実力を遺憾なく発揮してくれます。

そんなハンミョウの仲間は日本に23種,石川県では県レッドデータに指定されている4種(イカリモンハンミョウ,カワラハンミョウ,ハラビロハンミョウ,ホソハンミョウ)を含んで十数種類生息していると思われますが、レッドデータが示す通り環境悪化に伴い生息地が著しく限定される種や行政区域指定の天然記念物となっている種もいますので、採集よりも野外観察や写真撮影などを楽しむことを目的とした方が良いでしょう。

ハンミョウの仲間は成虫・幼虫とも食肉性で、成虫の大顎は極めて発達し鋭い歯で他の昆虫を捕食することから、英名では「tiger beetle」と言います。また幼虫の大顎もよく発達していて、地面に縦坑を掘ってその中に潜み付近を通る小昆虫を素早く捕らえ坑の中に引き込んで食べます。

コルリクワガタ:新芽に潜り込むコルリクワガタ。石川県にはキンキコルリクワガタが分布している。

【クワガタムシ】採集,飼育ともに非常に多くの愛好家がいるクワガタムシです。よって特徴云々を今更書くのも如何なものかと考えますが、他の昆虫との違いという観点で簡単に言うと、触角の形にそれは表れており、全体観が人の肘の様な形状で第1節(一番体に近い方)が長いと言う特徴を持っています。名前の由来は♂の大顎が鎧兜の兜に付いている鍬形に似た形している種類が多いことから来ています。日本に36種類~40種類(離島毎の亜種を細分化するともっと多いかも?),石川県では15~16種類が確認出来ますが、ネブトクワガタは県レッドデータ種に指定されていたり、それ以外でも稀少な種も存在します。

【コメツキムシ】 そのムシを机などに仰向けに置くと前胸と翅鞘の肩で机の面を「パチッ」と叩いて跳ね上がって元に戻る。誰もが子供の頃から一度はやってみたことがある事だと思いますが、ひっくり返ってる状態から元に戻るその動作が、その虫 コメツキムシ の名前の由来です。

ツマグロコメツキ:石川県で観察出来るコメツキムシの仲間の中ではかなり綺麗な部類。

 日本では約300種,石川県では約170種程度が生息していると思われますが、中には全く飛べない種もいれば、これまた他の甲虫同様、かなり綺麗な翅鞘をまとった種もいます。成虫は草木の上や花に来るもの,時には灯火に来るものもいますが、朽ち木内や石の下に潜んでいるものもいます。幼虫は朽ち木等の腐植質の物の中に多く見られ、腐植質そのものを食べるものからその他の昆虫(コガネムシ等の幼虫)を食べる食肉性のもの,農作物の根を食べる害虫もいます。

【ゾウムシ】 長い吻(フン)が象の鼻を連想させるゾウムシは、甲虫類の中では最も大きなグループ(科)を構成する虫です。日本には1,000余り,石川県では300種近くが確認されていますが、微小な種が多く、今後さらに多くの新種が発見されると考えられています。特徴の吻状の突起物の先端に口器が開いていて、植物の根や茎,葉,花,果実と、あらゆる部分を食べますが、もちろん種によって食べる部分と食べ方に特徴があります(幼虫も食植性)。種類も多いだけに生活史も多様で、ヤサイゾウムシのように単為生殖(タンイセイショク)する仲間も居ますが、普通は交尾後の♀が長い吻状の口器を利用して植物に孔を開けその中に卵を産み付けます。成虫は食草の色と同化した保護色となる種が多く、刺激にも敏感で、危険を察知すると体や脚を縮めて擬死する習性を持っています。

イタドリハムシ:ハムシの仲間では大型のイタドリハムシ。山地に多いこのムシも春の到来を告げる虫の一つ。

【ハムシ】 日本で約570種,石川県では約250種程が確認されているハムシ類。庭先の草花や農作物を食害するなど、人間の生活にかかわり深く、かつ身近な所で観察できる種も多くいます。幼虫,成虫ともに植物の葉を食べる食植性のものが大部分ですが、幼虫時代には根を,成虫になってから葉を食べる種も存在します。

【カミキリムシ】 長い触角でおなじみのカミキリムシは、日本では約800種,石川県では約280種ぐらいが確認されています。成虫,幼虫ともに食植性で、大部分のものが樹木の中で育ちますが、中には竹や草に食い入るものもいます。成虫は花,伐採木,野積みされた薪材などに集まり、また、昼間活動するものと夜間活動するものがいて夜行性の種は街灯に飛来することも少なくありません。成虫が樹液を舐めたり花粉,樹皮,葉などを食べる行為を「後食」と呼びますが、カミキリムシの後食行動は生殖器官を発育させることに関係があると言われています。樹木を食べる仲間の幼虫は、幹や枝の中をトンネル状に孔をあけながら食い進んで行くため「鉄砲虫」と呼ばれています。これら樹木を食べる仲間には生木を食べるタイプと枯木を食べるタイプがおり生木を食べるタイプは林業上の樹木をはじめ果樹や庭園木に害を与える種類が多いようです。

 

他の甲虫の仲間は別の機会にUPします。

参考文献:「甲虫」山と渓谷社

 

2003年11月26日 白山好虫会

LastUpDate 2016.01.11