石川県に生息するタマムシについて

Jewel Beetle

タマムシは日本で約250種,石川県では約50種近くが確認されていますが、種数としてはヤマトタマムシやウバタマムシなどの大型種よりチビタマムシやナガタマムシといった小型種の方が多く確認されています。ホスト等の条件がハッキリしない場合の種の同定には顕微鏡による交尾器確認が必要となりますが、設備を保有していない本会では同定作業を行う際、可能な限りホストとなっている植物や発生時期,および標高等の条件を加味した上で参考文献による絵合わせ的同定作業を行っています。

ウグイスナガタマムシ:10㍉に満たないナガタマムシの仲間。特徴ある種以外は肉眼で見ただけでは同定は困難。

■はじめに… タマムシの成虫は鮮やかな金属光沢を持つ美麗種が多くアジア各国では宝石商等で取り扱われる程で、まさに「Jewel Beetle」と言う名称がピッタリなのですが、幼虫はと言うと全体的に平べったく,頭の部分が丸く,目が無く,色が白く,尾の長いオタマジャクシを平らにした様な姿をしており、主に樹木の幹や枝の材中をトンネル状に食べ進む暗闇の生活者が殆どです(チビタマムシ属など一部の小型種は潜葉性で植物の葉肉を袋状に食べ進みます)。ここでは比較的観察し易いタマムシの成虫について、種毎のホスト条件などを考えた生息環境の解説をしています。内容は石川県で生息が確認されている種に偏ったものになっていますのでご了承下さい。

タマムシ(ヤマトタマムシ):エノキの大木に付く。近年の35℃を超える真夏日でもこの虫だけは活発に活動する。

■ウバタマムシ亜科(ルリタマムシ属ウバタマムシ属マダラタマムシ属) ルリタマムシ属で石川県に生息している種は、いわゆるタマムシ(ヤマトタマムシ)1種だけです。エノキやケヤキ,サクラなどの各種広葉樹に付き、真夏の晴天の昼間に活発に活動します。生息域は広く金沢市内でも十分観察することが可能ですが、結構大木の梢近くにいることも多くそんな場所では観察は容易でも採集する場合には、少しだけ運と根気道具(長竿など)が必要になります。中大型のタマムシ全般に言えることですが、梢近くでお尻を少し下げ気味にゆったりとした感じで飛ぶその姿とは全く別種の様なスピードで飛ぶこともあるため、観察・採集は慎重かつ素早く行う必要もあります。

ウバタマムシ:成虫はマツ類の葉や樹皮を後食し幼虫はマツの枯木に入る。成虫越冬もするため初夏には出現する。

「ウバタマムシ属」も石川県ではウバタマムシ1種のみが生息しています。アカマツ,クロマツなどマツ類の枯材に付くことが多く時には成虫越冬する場合もあります。その上翅の模様は特徴的で松の木肌に酷似しているため、目が慣れるまでは側にいても中々「見えない」こともある様です。

「マダラタマムシ属」はアオマダラタマムシ,クロマダラタマムシの2種が生息しています。両種とも石川県は生息域の北限近くにあたるため生息数は少なく県の準絶滅危惧種に指定されていますが、よく探すと局所的ではありますが金沢市内でも個体数は少ないながらも生息はしています。

エサキキンヘリタマムシ:山地性。山間部のヤナギ類やハンノキ類の樹冠部付近に付くことが多い。

■タマムシ亜科(クロホシタマムシ属キンヘリタマムシ属クロタマムシ属) 中型・美麗種揃いのクロホシタマムシ属キンヘリタマムシ属。石川県ではクロホシタマムシ,マスダクロホシタマムシ,エサキキンヘリタマムシの生息が確認されています。自然度の高い地域に生息していますが個体数自体はそれ程多くなく、またタマムシとしては「中型」と言えども7,8㍉~12,13㍉程度であるため、探すにはチョット「慣れ」が必要かも知れません。クロホシタマムシ,エサキキンヘリタマムシは、成虫,幼虫とも、ミズナラやカンバ類,ヤナギ類などの広葉樹をホストとしており、ホストの葉上で見つかることもあれば、産卵に訪れた倒木などで観察出来ることもあります。

マスダクロホシタマムシ:本来は暖地系のタマムシ。スギやヒノキの伐採木に多く集まり時には大量発生する。

マスダクロホシタマムシの幼虫はスギやヒノキなどの針葉樹を食害し害虫認定されていますが、樹皮下辺りを食い進むことが殆どで材に食い入ることはあまりないため樹木への被害は少なくて済む様です。成虫はウルシやウルシ科のヌルデ等を後食することがありますが、やはりこちらも発生および産卵に訪れる針葉樹の枯材や倒木などで観察出来ることの方が多いかも知れません。

クロタマムシ:ホストはマツ類の枯材。黒色、唐金色、銅色、まれに緑色、青色を帯びる。

クロタマムシ属ではクロタマムシ1種だけが石川県での生息が確認されています。アカマツをホストとし、マツ類,モミ類,エゾマツ類などの枯材に付きます。この仲間には美麗・珍品種のアカヘリミドリタマムシがいますが、石川県では未確認です。またタマムシ亜科の中にはアオタマムシなどの美麗種も含まれますが、こちらも石川県では未確認です(前述のクロタマムシは色彩変異が多く、稀に青色や緑色を帯びるものも出現することもある様です)。その他のタマムシ亜科の中ではヒメヒラタタマムシの一種が確認されているのみです。

ムツボシタマムシ:特徴的な模様のムツボシタマムシ。動きは敏捷。ホストはカシ類、クリ等で伐採木に多い。

■ムツボシタマムシ亜科(ムツボシタマムシ属) 国内に13種生息している「ムツボシタマムシ属」。そのうち石川県ではムツボシタマムシ1種の生息が確認されています。その他ツシマムツボシタマムシやヤマムツボシタマムシが生息している可能性もあり、ひょっとしたらアムールムツボシタマムシやコモンムツボシタマムシやオオムツボシタマムシなども生息している可能性はゼロでは無いと考えています。割りと早い季節に出現するムツボシタマムシは、枝打ちされた枝や落枝などを山積みにしたソダや、生木でも枯枝部分に集まることが多く、一度飛び立っても全く同じ箇所にやってくる可能性が非常に高い面白い習性があります。動きは俊敏で歩行の様子はまるで蝿の様でもあり、かつ非常に上手に良く飛ぶので、観察や採集には人間にも素早い動きが要求されます。

シロオビナカボソタマムシ:山地を中心としたキイチゴ等のイチゴ類に集まる。生息域は比較的広く生息数も多い。

■ナガタマムシ亜科(ナカボソタマムシ属チビナカボソタマムシ属クリタマムシ属ナガタマムシ属) 「ナガタマムシ亜科」は5つの属に分類されていますが、ムナビロタマムシ属は南方系で石川県にはどの種も生息していません。その他、ナカボソタマムシ属は国内14種中6種,チビナカボソタマムシ属は同4種中2種,クリタマムシ属は同6種中1種,ナガタマムシ属は同88種中17種が、それぞれ石川県内でも確認されています。ナカボソタマムシ属は金属光沢のある中~小型美麗種が多く、少し目を凝らすと簡単に観察も採集もできる、生息場所,生息数が多い種もいます。またこれは多くのタマムシに言えることですが、葉の裏より葉の表面に付いていることが多く、交尾したり葉を後食しているシーンを良く見掛けます。タマムシの観察には、天候や発生時期の目安,および種毎のホストとなっている樹種を把握しておくことが最重要要件となります。樹種を覚えるには各種図鑑などで調べるだけでなく樹木公園等で樹種ごとにラベルを貼った場所へ行き、実際の葉の形や生え方,樹皮などを観察して覚える方法も有効だと思われます。

ムネアカチビナカボソタマムシ:ホストはアカメガシワ。5月~8月頃活発に活動するが10月にも確認している。

チビナカボソタマムシ属では、クルミ類やヤナギ類をホストとしているカラカネチビナカボソタマムシと、カシワ類をホストとしているムネアカチビナカボソタマムシの生息が確認されています。クリタマムシ属で石川県での生息が確認されているのはクリタマムシ1種だけで、名前の通りクリやナラ類をホストとしていますが、小型種であるゆえ丁寧に観察しないとなかなか見付りません。

シラホシナガタマムシ:エノキの伐採木に付く。羽を広げると特徴的なブルーメタリックの腹部背板色が見れる。

ナガタマムシ属は種数も多く、その分ホストとしている樹種も種毎に多様です。小型種も多く模様も地味な種が多いのですが、中にはJewel Beetleの名に恥じない美麗種も生息していたりします。

■チビタマムシ亜科(ケシタマムシ属エグリタマムシ属チビタマムシ属) 小型種揃いのチビタマムシ亜科は3属に分類され、それぞれケシタマムシ属で国内3種中1種,エグリタマムシ属で同4種中1種,チビタマムシ属では2亜属を含め同34種中11種が石川県内で確認されています。

オオダンダラチビタマムシ:ホストはシイ類。ダンダラチビタマ、サシゲチビタマに似ている(拡大白台紙撮影)

チビタマムシ類はすべて、幼虫は被子植物の潜葉虫で、新成虫は8月頃に現れて短期間活動したのち、樹皮下,石下,苔類の中などで越冬に入り、翌春活動開始し初夏に産卵します。成虫はどの種もホストの葉上にいる事が多いので、採集にはホストをスィーピングするのが有効なのですが、目線下の低い箇所にも付いている事も多いので、良~く観察すると後食や交尾,産卵シーンを目にすることも出来ます。

(種数や分布数,分類等については、現時点のものです)

2003年11月26日 白山好虫会

LastUpDate 2016.02.14